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クローバー3号(6月30日)

    視覚障害と読書    

 私は現在全盲のチュー年男(45歳)、子どもの頃は強度の弱視でした。夏休みは大好きでしたが、同時に憂うつな気持ちになる時期でもありました。なぜなら、夏休みの宿題に毎回必ず「読書感想文」があったからです。漫画も楽しめない私にとって読書なんてとんでもない!!
 小学校の高学年になって、盲学校に転校してからも読書嫌いは変わりませんでしたが、学校の隣にあった「点字図書館」で、カセットテープに録音された本を読んでからは、趣味は読書です!と言えるまでになりました。それ以来、点字図書館にはお世話になりっぱなしです。
また最近はリクエストをして、点訳や音訳に加え※プレーンテキスト化までお願いしています。全国の点字図書館のネットワークであった「点訳広場」に、その後の「サピエ」に個人会員として加入し全国の皆様に助けてもらいながら、読書を楽しんでいます。読書万歳!!(椎名靖和)
※プレーンテキスト・・・単純に文字だけのデータのこと
 

【サピエとは】

 視覚障害者及び視覚による表現の認識に障害のある方々に対して点字、 デイジーデータをはじめ、暮らしに密着した地域・生活情報などさまざまな情報を提供するネットワークです。また個人で利用する場合は無料で、デイジーデータのダウンロードやストリーミングができます。点字・デイジーデータを、全国どこからでもダウンロードでき、またインターネットを通して、全国の視覚障害者、ボランティア、情報提供施設・団体をつなぐ場にもなっています。
※「サピエ」はラテン語のSapientia(サピエンティア)=知識の頭文字です。
興味のある方、「サピエ」についてもっと知りたい方は以下のURLへ→https://www.sapie.or.jp/entry.shtm
【デイジーとは】
 Digtarl Accessible Information Systemの略で、日本では「アクセシブルな情報システム」と訳され、視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のためのカセットに代わるデジタル録音図書のことです。


ワンポイントアドバイス~教室編①~
 弱視の子どもにとって、板書の読み取りや視写は苦手な課題の一つです。
1 板書を見る(読み取る)力を大まかに把握するには
  次の観点で黒板に文字を書き、『子どもに聞ききながら、一緒に確認してみましょう』  
(1)読みやすい字の大きさは?(どの程度の大きさの字が見えにくいのか)
(2)何色が見えやすい?(何色が見えにくいか)
(3)黒板のどの範囲まで見える?(座席のどこからが見えにくいのか)
2 教師が行う板書での配慮
(1)字の大きさを強調(少し大きく)して書く
 ① 画数の多い漢字の場合
 ② 新出漢字の学習などで細部まで確認する必要がある場合
(2)色(色相、明度、彩度)の見え方に配慮して書く弱視の子の中には、色相(赤、青、黄色などの色あい)と彩度(鮮やかさ)の弁別が弱く、明度差(明るさ・暗さ)を色の違いの判断基準にしている場合があります。
  ① 板書では、白色や黄色のチョークの字が比較的見やすい
  ② 見え方によって、蛍光チョークも有効
  ③ 赤、青のチョークは、黒板とのコントラストが小さく判断しにくい
  ④ チョークの《白色と黄色》《赤色と緑色》の配色は区別がつきにくい
 (3)その他の手がかり 
  ① 文字の横や下などに直線や波線などのラインを引く
  ② 囲み枠なども併せて使うようにする
  ③ 手元で目を近づけて確認できる大きな文字のプリントを準備する
  ④ ★見出しには記号やマークを付ける
  ⑤ レイアウトや余白に配慮する
参考図書:『見えにくい子どもへのサポート』 編著 氏間和仁 読書工房


教材・教具の紹介~数学の授業実践より~
1 教具の作成
  大内1)(1989)は、触覚や聴覚を活用することを前提に、次の留意点を挙げています。
  ① 楽しくおもしろい教具…目的意識をもちやすかったり、操作すると変化がみられたりするなど、「児童生徒の意欲を喚起する」教具がよいと述べています。
 ② 使いやすい教具…簡単に壊れたり故障したりしないもので、一人でも扱えるものがよいとしています。
 ③ 大きさや構造の配慮…広くても腕を伸ばして描かれる円弧の範囲内であること、2次元空間の理解などに配慮します。
 ④ ガイドの活用…操作の目印をつけたり、必要に応じてガイドを活用したりするなど、一連の操作的活動が滑らかに進むように配慮が必要です。

2 教具の活用の実際
 ① ベン図模型・A∩BとA∪B 【高校数学Ⅰ】
 A∩Bは、AとBのどちらにも属する数(共通部分)のこと、A∪Bは、AとBの少なくとも一方に含まれる数(和集合)のことです。

 これを模型で示すと、A∩B はA、Bの模型で2枚重 なった部分、A∪Bは模型の1枚の部分と2枚重なった部分になります。
 例えば「A={1,2,3,4,5}、B={2,4,6}とするとき、A∩B及びA∪B を求めなさい。」という問題では、A∩B ={2,4}、A∪B ={1,2,3,4,5,6}が答えとなります。

 ②順列のイメージ模型【高校数学A】
 「A~Dの4人の生徒から3人選んで並べる順列は何通りあるか。」のような順列の問題で活用する教具です。
 実際にA~Dのカードを枠の中に並べていきます。1番目にAさんが入った場合、2番目枠にB~Cの3人が入れます。
 そこにBさんが入ったとすると、3番目枠には、C、Dの2人が入れます。樹形図を書くと左のようになります。
 よって、問題の答えは、4×3×2=24(通り)になります。
 ①②のように操作を通してイメージを形成し、樹形図や計算の仕方等の概念理解を促します。
 ※参考文献 1)大内進(1989)、「小学部教科教育における教材・教具の工夫と活用」、68号

「好きなところ」を手掛かりに
 視覚障害は文字と移動の障害と言われます。今回は、そのうちの「移動」に焦点を当てて考えてみたいと思います。視覚に障害のある人が移動することを考えるときに、ぱっと思い浮かぶものは「白杖」ではないでしょうか。白杖はとても大事なものですが、その白杖を使うために必要となるものは、まず「情報」です。
 私は、小学部低学年児童との関わりを通して、何気ない学校生活で気になる場所、そこで「情報を手掛かりにする姿勢」について考えてみました。
 これは本校のグラウンドへ続く道です。グラウンドまでは若干の傾斜になっており、傾斜を下りると横断歩道になっています。横断歩道を安全に渡るためには、手前で止まって、車が来ないことを音で確認しなければなりません。だからこそ、このような傾斜を感じることは、歩く際の大きな手掛かりとなります。また、場所によって路面の色が変わることや横断歩道のしましまに気付くなど、自分のもっている視覚を十分に活用することも大切です。
 右の写真は、学校の畑です。何気ないこんな場所にもコンクリートの部分と畑の土の部分に大きな段差があります。段差の存在に気付いておくこと、コンクリート部分と畑の土の色に違いがあることなどを、事前に知っておけば気を付けて活動することができますが、気に留めなければ危険を伴う場所です。
 グラウンドから学校へ戻る道の途中で、「坂道があるよ」「坂道を下るとしましまが見えて、横断歩道があるよ」「道路の色が変わるよ」などと伝えるうちに、児童は自然と横断歩道を意識するようになり、「もう分かるよ!」と言って自分から止まることができるようになりました。そして私に「この坂道好き!」と話してくれました。言葉掛けをしておくことで環境の変化に気を留めるようになったり、それが「好きなところ」に変わっていったり…。これは、今後児童にとって横断歩道の手前で止まるための手掛かりになります。日々のちょっとした言葉掛けは、児童にとっての大切な情報へとつながります。
 視覚に障害のある方と歩く際、その道を知るための手掛かりとなるようなちょっとした特徴を伝えてみてください。それが「好きなところ」になって、その方を助ける大切な情報となるかもしれません。(高橋 由衣)

御相談のお問い合わせは 秋田県立視覚支援学校 ロービジョン支援センターへ御連絡ください
相談担当 菊地雄平・佐藤加奈子・長崎雪子・落合久貴子 

本文はここまで

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